読書メモ「タイガーマザー」エイミー・チュア著

2011年話題の教育本(?)で翻訳・監修が斎藤学

佐藤ママの元祖かも、と思ったので読んで

具体的に役に立つ教育ハウツー本ではなく、

初めから著者も「そういうことは書いてない」との注意もある。

軽めの子育てにおける東西文化論で、それを煽情的に書いて大成功!という、

「炎上商法」で爆発的に注目を集めた子育てエッセイ、と、

ほめていないようだが、よくできた本だと思った。

極端に走った「これが中国式教育!」が一大センセーションを呼んだのは納得、

西洋教育思想の「子供に自由を!」を徹底的に否定するいくつもの「きまり」は

「子供の自由に価値などない!」とはっきりと提示して恐ろしいくらい。

特に米国で恵まれて育った子供に「子供同士のお泊り会、禁止!」など

お泊り会は「子供の自立!」のために必要だと考える保護者はアジアでも多いので

東西どちらからも反発を食らうのは必至、

そもそも子供の猛反発に手を焼くのは火を見るよりも明らかだ。

ただ、チュア氏のバイタリティーには本当に感心する。

この手の細かな生活指導(一番大変なところ)にも手を抜かず

大学教師をしつつ二人の娘を教育するのに惜しみなく持てる力をすべて注ぐ。

これができる母親は全世界的にみてもそう多くはいないので

お嬢さん二人が優秀なのは母親の優秀な遺伝子、

そもそも父親も同じ大学の先生で、教育よりも遺伝子が、、、と

まあ、よい遺伝子を100パーセント発揮するには環境も大事なのは確か。

勉強と同時に二人の娘の課外活動、ピアノとバイオリンを猛烈に練習させて

若いうちからその芸術的能力を大きく世間に認めさせようと奮闘するのはすごい。

ただ、なぜそこまで幼い子供の成功を求めるのか、私にはわからなかったが

長女がハーバードとイェール両方に合格したと知って

要するに大学受験にプラスとなる「課外活動」での目覚ましい実績を

10代半ばになるまで達成させる明確な目的を母親は持って動いているのを理解した。

母親の猛烈な指導には理由があり、それを長女は素直に受け入れたが

次女は母親の厳しい指導に反抗して途中で投げ出して、

それをチュア氏がしぶしぶ受け入れるところで話は終わる。

次女との軋轢はアメリカの特殊な大学受験方式にある気がした。

その後、次女も姉と同じハーバードの学生になっているので、

チュア氏の教育は大成功。

考えてみればアジア移民で学術で身を立てている一族がそれを子孫にも継承させるには

相当な手段が必要で、米国白人層の莫大な富と伍するためにはチュア氏が提唱する

「西洋の精神論より中華思想」で「科挙の国の勉強法で勝つ!」は合理的、

また、反感を買う保守的なアジア系の教育方針を最初にガツンと上げるわりに

垣間見せる「イエローで愚かな私が書いてます」のしなは

ホワイトピーポーへの受け狙いがちらほら。

このあたりにガリっと来るアジア人読者はいそうな気もする。

私は莫大な金の力でイェールに入学したチュア氏が教えている学生たちが

教師は学生という「顧客」をもてなすために存在すると思っている状態への

遠回しの反発でもあるのか、と考えてしまった。

アメリカの名門大学では学生に不人気な教師は簡単にクビになるよう。

チュア氏は現在もイェールの教授なので大したものだ。

印象に残ったのは、娘たちがピアノやヴァイオリンの上達でステップアップするにつれ

出会った、命を削るように音楽に力を注ぐ大陸から来た親子で

チュア氏は彼らの親子一丸となる迷いのなさに思いをはせるものの、

「彼らに迷いがないのは国を出る手段として親子でそれに賭けているから」と、

移民3世であるわが子が母親の思うように言うことを聞かない四苦八苦ぶりとの違いを

意識する、その辺りがすでにチュア氏は「米国民」なのだな、と

私はそこでようやくチュア氏が娘たちに音楽で人生の成功を求めているわけでは

ないのに気が付いた。

音楽は米国で一流人材と認められるために必要な学歴取得の手段でしかない。

この点で、大陸から来た親子とさほど立場は変わりがない気が私にはするが

チュア氏はそうだとは思っていなさそうだった。

米国の学歴取得への道のりはおなかに子供が入る前から始まっている!などと

日本もある種の階層ではそうなので、どこでも同じ。

米国方式の大学受験は「金持ち、勝つ!」があまりにバレバレなので

ごまかしにたまにそこまで裕福ではない子供を大学に入れたりするものの、

卒業後のその学生の就職先の芳しくないのは有名ではないのか、

ハーバード卒の芸人パックンは米国で良い就職先がなく日本に来たようだ。

彼のハーバード合格は貧困層向け枠だったらしく

コネがなければまともに就職もできないのは米国も日本も同じ、

東西の文化論を語るようで社会の仕組みは東西でもさほど変わりがないことを

確認できる私には面白い本だった。

ちなみにチュア氏の夫はユダヤ人で、中国、ユダヤカップルが世界最強かも。

星は5つ。おわり。