大河雑記。

ようやく主人公が世界に旅立つ。(涙)

もう前半部分が「神楽を踊った」だの「お役人に歯向かった」だの

たるくてたるくて、「一方そのころ慶喜は」のほうがメインじゃないかと

実際そういうつくりなんだろうが、だれが主人公なのかわかりかねた。

とはいうものの、今回の幕末ものは珍しく慶喜に同情的で好感が持てる。

司馬史観」を受け継いだ「慶喜がすべて悪い!」論ではない、

現実的に見れば割を食った気の毒な最後の将軍であったことをきちんと描いて

みなもと太郎先生にすっかり洗脳されて「慶喜といえば卑怯者」と刷り込まれた

マイダーリンと全く違う意見を持つ私には好ましい。

実際には相当気の毒な人物にしか私には見えないので、

慶喜氏をもう少し平等に見てあげてほしいものだ。

また草なぎ君が多才でかつ繊細な慶喜を好演して素晴らしい。

時々、遠くを見る目になって諦観を現す表情になんとも言えない情感が漂う。

滅びゆく侍の時代を見送らねばならなかった最後の将軍と

そのあとの時代を背負って力強く生きる元農民の経済活動家とを対比させる、

なかなか見事な作品に思うのだけれど、世間の評判はどうなのかな。

私は過酷な時代をそこそこやり抜いた人間として慶喜を好ましく思っている。

彼が一番責められるのは大政奉還のあと江戸に逃げたことではあるが

私はこの先、自分が願うようには決して時代は動かない、

あまりにも旧弊な人脈に辟易として身を引いたのは仕方がなかったのではないか。

何をどうやっても幕府軍が勝つ世界ではなかった、

むしろ内戦を長引かせずに済ませたのはある意味英断だと思われるが、

そうではないとする方が、大勢の人間が格好良く見えるのだよな。

大勢の人間が良く見えるようにするためならたとえ将軍でもいけにえになってもらう、

そういう世界に生きる最後の将軍と思えば、私は大いに彼に同情する。

私はマスコミの祖になった栗本鋤雲なんかは大嫌いだしな。

慶喜のエピソードで私が好きなものは、大阪城からこっそり逃げる時、

侍の娘ではなく、町人の娘だった愛妃の方を連れ帰ったこと。

これだけでも侍にとっては噴飯ものであるだろうが、

侍の娘であれば何とか保護して連れ帰ってもらえるが町人の娘なんかしらん、

と平気でするのが侍社会であるのをよく知っていたのがわかる。

慶喜を丁寧に描く、今までにない幕末観は素晴らしい。

主演の吉沢亮君を朝ドラ以外で初めてまともに見て、

高良健吾同様、その美貌が気にならない程度に好演して良い。

あんまりお顔がきれいすぎるのでそちらばかりに気をとられるかと思ったものの

 普通に見えてくるのは演技がうまい。

いろんな人が入れ代わり立ち代わり現れるのは幕末ものの宿命だろうが、

これはコロナ効果もあるのかと思ったり。

出演を少なくするとコロナ蔓延率も下がるだろうし。

昨年の長谷川博己氏の大河も地味に良かったが、コロナ禍で中断されたりして

評判にあまりならなかったのは残念だった。おわり。