10年前の「この・ミス」にヘニング・マンケルの「5番目の女」があったので
読んでみた。これは「ヴァランダーシリーズ」の何作目にあたるのか、
ヴァランダーがかなり怒りっぽいキャラクターなのにびっくり。
マルティン・ベックのような渋いおっさんかと思っていたら、
できてなさ、至らなさ、こんなに幼児性を持つ刑事・探偵って珍しいんじゃないか、
すぐ不安に陥ってくにゃくにゃするし、泣くし、キレるし、
「大人」らしさのかけらもない情けないおっさんでどこが人気なんだか。
これだったら嫁に逃げられるわな、現恋人だっていつ逃げるかわからん、
永遠に誰かに面倒を見てほしい系おっさんで、仕事のできる女性部下に甘え
その上、自分のミスで彼女に大けがまでおわせたりして
私はこんな手のかかる上司、ぶん殴ったうえで絞め殺したくなるな。
「出来ないおやじ」の見本のようなおっさん刑事だが、
さすが小説、周囲はまったりと見守っている。このあたりが「幻想」としてよいのか。
ヴァランダーシリーズは60~70年代に書かれた
「マルティンベックシリーズ」と同じく、1年1作、
スウェーデンの社会背景も描きつつ90年代を舞台として書かれているようだ。
マルティン・ベックは昔スウェーデンで制作されたドラマをNHkで見て
面白かったので原作を読んでドラマともども楽しめたけれど、
ヴァランダーのテレビシリーズでこの作品だけ配信で見てみたが、
原作のほうが面白かった。私はケネス・ブラナーと相性が悪い。
久々にマルティン・ベックを読み返すと
グンバルド・ラーソンがトナカイ柄のパンツがお気に入りという場面があり
どうも北欧の男はどこかしら幼児性を持つのが良いらしいと半ば呆れる
かつて読んだはずなのにさっぱり内容を忘れているおばはんは思ったのでした。
この「5番目の女」は連続殺人犯が女に理不尽な暴力をふるったのに
犯罪として裁かれなかった男たちを次々と制裁を加えていく、
ほぼ「必殺・仕事人!(古い)」で犯人側に共感を覚える。
作品の中では警察内でも犯人に同調する人間がいたとあってそれであの結末か。
欧米の男性の女性に対する暴力はアジアの国よりすさまじく思われる。
先日、ネットで「ポンチ画を知らない若者」の話題を見たが、
そもそも「ポンチ」のネタ元「パンチアンドジュディ」は
夫のパンチが妻のジュディを棒でさんざん殴りつける人形劇だからな。
あれを「笑劇」として楽しむ「文化」がある国々をなぜ日本はありがたがるか
「ワイフ・ビーター」なんて言葉がある国なのにな。
それと「ヴァランダー」人気は根底に同じものがあると思うのでした。
ろくでなし主人公がある意味「等身大の男」か。
ミステリとしては面白いのでシリーズで読む予定。おわり。