「貧しさ」を見ている。(その2)

うちの近所に有名な「ネグレクト兄弟」がいる。
地元に帰ってきたばかりの数年前、遊びに行った子供達を幼なじみの家まで
迎えに行こうとした夕方、わんわん泣きながら走っていく小さな弟をを必死で
引っ張って止めようとする男の子を見た。
「あんなのお母さんじゃない、あんなのうちじゃない」と体の小さい方がはっきりと
言葉を発していたのに驚き、また我慢強く車や自転車にじゃまにならないよう
道の端に弟を引き寄せようとする兄も、まだ子供なのに申し訳なさそうに
車を止めた私に頭を下げたのも印象に残った。
兄弟げんかにしてはずいぶんとおかしな台詞をと、子供達のいる幼なじみの家に行って
そのことを言うとそれが以前に話したことのある母親がほとんど食事を与えない
有名な「ネグレクト兄弟」だと教えられた。
私が引っ越してきたのは子供がそれぞれ1年と5年の時、その兄弟とたまたま
上も下も同じクラスになった。幼なじみから聞かされていたとおり遠足や運動会など、
お弁当が必要な日に持ってこないので、みんなが少しずつお弁当を分けてあげる、
ふつうそういうことがあるといじめをする子供も出てきそうなんだが、不思議とそれはなく、
みんなが「仕方がない」という気持ちでその子供達におかずやおにぎりを分けていた。
何故その子達が食事を与えられていない「ネグレクト兄弟」と判明したかというと
二人がおなかがすくと家出して警察に保護される、見かねた近所の人が
時々食事を与えていたことから広まったらしい。
私が初めて見たとき、兄は5年生にしては2年か3年ぐらいにしか見えないほど華奢で、
弟も幼稚園の年少組くらいに見えた。幼稚園ではなく保育所に通って、
食事はほとんどそこでの給食だけだったようで、小学校に上がってからもそうらしい。
民生委員が何度か母親以外の保護者を捜したようだが父親は行方不明、
母親にも身寄りがあるのかないのかわからなかったそうだ。
子供を引き離そうとしても母親がいやがる、子供も母親から離れるのをいやがる、
(でも家出する)運動会や参観日によくわからない男性と一緒に見に来ていたりするときは
機嫌のいい母親を兄弟は誇りに思っているようにも思えた。
食事の面倒以外は母親はよくしている、汚れた靴や服でいたのを見たことがない、
この兄弟の身なりはいい。いつ見ても髪はきれいにカットされていて、
センスのいいブランドものの服を着せられて、
一見して「食事を与えられていないネグレクトの子供」のイメージはない。
母親もそんな食事を与えない女性には見えない、穏やかな、話すとあれ、
と思うようなところはあるがふつうの人に見えた。
美容師の資格があって時々は仕事する、
でも心療内科に通院して薬をいつも飲んでいるとも聞いた。
家出をよくするのは弟の方でそれについていくのが兄、でも中学生になった兄の方が
急に行方不明になった。実際は、小学校の時からの友達が兄に親切心で隣の家が
空き家だから住んだら、と勧めて、そこでぼや騒ぎを起こして保護処分になっていた。
母子家庭である彼らがどうやって食べていっているのか、
いわゆる「せいほ」を受けていると人からは聞く。
何故、食べさせないのか、自分もあまり食べているようではない、
と私の何でも知っている幼なじみは指摘する。
私は「貧しさ」を考えるとき、なぜかこの家族を今は思い浮かべてしまう。
「食べること」「食べさせること」これが「貧しさ」と直結していると思うせいか。
「食育」とか「親学」とか、ふわふわと漂うように生きているかに見える母親には届かない。
色々考えていたこともあるんだけれど近所に住む親戚が思ったよりも早く悪くなって再入院。
ばたばたしているうちに何書こうとしてたか忘れてしまった。
一つ入ると一つ抜ける、この私の容量の少なさよ!
今は白米は「ブーム」じゃない、小さなお嬢様の「むら食い」にふと昔を思い出して
いやされる。うちの子も4才ぐらいのときそうだったなあ、、
あれこれ悩んだけどいつの間にかその「ブーム」は終わる。
その時期「マイブーム」なんて言葉がはやってたのを思い出した。
また子供は何故食べられないかを色々説明してくれるんだよね、
それに一喜一憂して、私の人生の根本が問い直されてるような気になってしまう。
程度もあるけどとりあえず「ブーム」な食べ物につきあっていてもいいと思う、
飽きちゃうのも早いから。
「あら、あたし、もうそんなものは口にしなくってよ、いまは白米が私のき、ぶ、ん!」
みたいなことも言い出すし。
子供ってやっぱりいいわ。生きてるって、いいなあ。
なんか「豊か」の話になった、やっぱりそういう話の方が今は気が楽だ、
書くことを思い出したら、また「貧しさ」については書くことにする。
(中途半端におしまい)
追記;いかん、「むら食い」は別の意味だった、「ばっかり食べ」だったか(?)
幼児との生活を離れて長いと、こんなことに、、ううっ、自分が情けなー、、
子供は成長するが、自分は「劣化」、とほほ。