読書感想 黒い迷宮 ルーシー・ブラックマン事件15年目の真実 つづき

ブラックマン事件は日本の警察が外圧で動いたことで露わになった犯罪で

「やればできる!」じゃん、警察、と私は思ったが

著者のバリー氏は日本の警察に辛辣で、

比べるとネットフリックスのドキュメンタリーは優しい。

結局は警察が織原をあぶりだしたわけだし、英国で日本人女性が行方不明になった時

どの程度ちゃんと探してもらえることか、これはバリー氏も言及している。

要するにルーシーさんの父親の大活躍により、ここまでできた!ということで、

その割に裁判結果は遺族には納得しづらいものであっただろう。第1審では。

得体がしれないというよりは得体がない織原という男は

この先もただ金があるだけの存在として生きるだろうし、

性犯罪者のステレオタイプとして記録に残るだけだろう。

それより彼の家族が金の力で「冤罪」大キャンペーンを張ったことが興味深い。

ルーシーさんは弁護側と織原によって「薬で壊れた白人女、被害者が悪い!」と

主張され、バリー氏はこれに徹底的に反論する取材を行っている。

「そこそこ恵まれた家庭で育ったどこにでもいる21歳の英国人女性」が実像で

亡くなった時はたった21歳でちょっと浪費家だったり考えなしだったりは

若者特有で責められるいわれはかけらほどもない。

ましてや薬を盛られた挙句に殺されてバラバラ遺体にされても仕方がないわけない。

世間では今昔変わることなく金のある男性が性犯罪を行った場合

「女に騙されたー!」と言いたがるのが常で、

この加害者が被害者ぶるしぐさはいい加減どうにかならないものかとうんざりする。

ルーシーさんはバリー氏が描くようにまさに「運が悪かった」でしかない。

日本で野放しになっていた最低の性犯罪者にたまたまぶつかって命を亡くした、

まことにご家族にとっては気の毒としか言いようもない、

この点でもっと早くに日本の警察はろくでもない性犯罪者を捕まえてほしかった。

この事件が解決に向かい、少なくともルーシーさんが遺体になっていても

母国に帰れたのは父親であるティム氏の大活躍のおかげだ。

ティム氏が行方不明の娘を探すための大キャンペーン活動もバリー氏は記録している。

ティム氏はかなりやり手の英国人ビジネスマンでのちに織原から

本人曰く「お見舞金」として1億円を受け取ったことを非難されているが

私は受け取らないいわれはもうなかったと考える。

むしろ割り切って受け取る人間だからこそ、ここまでやれた、

彼の活動はのちに起こった英国人講師女性殺人犯・市橋の事件が

少なくともご遺体が早めに見つかる程度に役にも立っている。

被害者女性のご家族が来日して行方不明の娘を探してほしいと訴えた時は

ティム氏のように堂々と日本の対応に怒りを持っての会見ではなく、

ただひたすらに娘を案じる途方に暮れた父親であったことをバリー氏は記して

ティム氏が最初から戦略的に娘を探す「活動」を行ったことが明確になる。

この時の「活動」の試行錯誤がのちにティム氏へのバッシングにもつながるのだが

金を受け取っても受け取らなくても娘はもう帰ってこない。

ならばそれまでの活動の慰謝料として当時は巨額だった1億円を受け取るのは

当然の「報酬」ではなかったか、それの出所がどこであったにせよ。

意外だったのが、この行動が本国で非難されたことで、私は英国ではてっきり

「クソなじゃっ〇レイピストから金をふんだくってやったぜ!」と称賛されたのでは

と思ったが、英国でも「娘の死を金に換えたー!」と非難ごうごうで、

そんな感覚を持つのは世界共通かと驚いた。

話を裁判や弁護活動に戻せば織原は弁護活動にもそうとうるさく口を出して

ウィキで記載される自身を冤罪と主張する自作自演の本を出版する、

ナルシシズムあふれる行動をとりまくっているので、

この「黒い迷宮」がアマゾン上で酷評もあるのはそのせいか。

バリー氏は取材活動中に様々な脅迫も受けたようなので、なんとまあ。

私はかなり面白く読めたので星は5つ。

ネットフリックスのドキュメンタリーを見て興味の湧いた人にはお勧め。

ところで、私は欧米では日本の「ホステス」に当たる存在が

一般的ではないのに驚いた。

「お酒の席で疑似恋愛に付き合うけれど肉体を売るわけではないホステス業」は

日本独自のものらしい。

私はてっきり日本在住の欧米人たちの寂しさを紛らわせる要員としての

「ホステス」業かと思っていたら、

「俺って英語話せるんだぜ」の金髪美人好き日本人向けのホステス業であるのに

驚いた。好事家とはどこにでもいるものだな。

金髪美男好きのバーも日本に存在するのかね。私の知らない世界だった。終わり。