読書記録 コリーニ事件 フェルディナント・フォン・シーラッハ

少し前に「ヒトラー」発言でにぎわった話の決着はついたのか。

子供アニメの決め台詞のように「ナチス」や「ヒトラー」は良く用いられて

聞くたび私は日本はかつてそのドイツの同盟国であった事実を発言者は

どう思っているのか聞きたくなる。

ユダヤ人にビザを出し続けた外交官杉浦千畝が外務省に承認されたのは

つい最近であったことを思うと、「ナチス!」「ヒトラー!」は

日本人として使わないほうが無難な気がするけどな。

10年ほど前にミステリーチャンネルがしきりに宣伝し放映された

「あのフォン・シーラッハ原作の!!」ドラマを一度見て後味が悪く

さて、原作は、と手に取ってみたのが「コリーニ事件」。

「あのフォン・シーラッハ!」の「あの!」とは私はこの度初めて知ったが

ナチス戦犯バルドゥール・フォン・シーラッハの孫!」と言うことらしい。

ナチス協力者の中で数少ない死刑にならなかった人間の一人だそうで

なんだったら東京裁判にかけられた人間の名前すらもあやふやな私が知るはずもなく

ウィキペディアを見るとそのナチでの経歴は真っ黒な、何故死刑を免れたのか

やはり裕福な貴族階級出身であったからですかね。それとも母がアメリカ人だからか。

で、「コリーニ事件」は大物ナチ戦犯の孫で弁護士でもあるフェルディナンドが著した

ナチ残党の暗躍にかかわる話で、ナチでの経歴が真っ黒な連中が

戦後もしゃあしゃあと活躍した事実に驚くばかり。(日本でもそうか)

法律のあっと驚く盲点を突いた、そりゃー国際裁判でも引っかからないはずだよ、

頭良いのねー、と言いたくなるような、ある意味最も悪質なナチ協力者が

戦後もドイツで一定の地位を持ち続けた現実を突き付けてくる。

これをかつての戦犯の孫が暴きだすことにこの作品の意味があり、

もっとも私に面白く思われたのが翻訳者の酒寄進一氏のあとがきであったりする。

著者で弁護士である孫の方のフォン・シーラッハ氏が通ったミッションエリート校で

同級生たちに「シュタウフェンベルク」「ヴィッツレーベン」「リッベントロップ」

の孫、前二人はヒトラー暗殺計画に加担して死刑、あとはニュルンベルグ裁判で死刑

ほかにも「シュペーア」「リューニック」の孫も同級生だったと、

戦犯と戦時の悲劇の英雄たちの係累が同じ学校で学び続ける、

歴史は連綿と現在にも続き、血脈は絶えることがないからこそ、

ドイツでは「ナチズム」への警戒感を常に持ち続ける。

と言っても「こんなこと」がしれっと存在した事実は結局その警戒感は形だけか、

(「こんなこと」は「ネタバレ」なので自粛)短いながら多くを考えさせられる作品で

決め台詞のようにすぐ「ヒトラー」だの「ナチ」だのと口にするのは馬鹿げている、

と言って、この度の問題発言はよく読むとそれだけをわざわざ取り上げる側にも

相当な作為が感じられ、やはり安易に使ってよい言葉ではない事実を

かつての同盟国の人間なら認識しなければいけない、と思ったのでした。

でも、頭の作りが単純なおばはんの結論は「金持ち!憎し!!」だったりして。

ヒトラーユーゲントにがっつりかかわったような悪党でも貴族階級出身で

親が裕福なアメリカ人だと死刑になりませんことよ、奥様。怖いわぁ。

面白さは個人的には星5つだけど、一般的には3つくらいかな。おわり。