ウォーターズ・「いや・ミス」メモ。

ネタバレを思いっきり書き残すのでタイトルがはずしておくものの、

これほど「いやなミステリー」はないんじゃないか、の「エアーズ家の〇落」、

事件後に幸せな人が犯人含め誰もいない。

ウォーターズは私が今まで読んだ3作品はどれも「叙述ミステリ」で

3作品目である今回も、そうなんだろうと思って読んでもやはり面白かった。

今回は読み手が女性ならば「感覚のミスマッチ」でかなり早くに犯人が誰かわかる。

ここもまた面白さの一部だったりして。

語り手が自身を記述しているほど謙虚な人間ではないのがその行動で示されて

やっていることと言葉のアンバランスな薄気味悪さも後味の悪さの一部でもある。

性愛の偏執性を書かせたらレズビアン作家であるのを公表しているウォーターズに

勝るものはいないのではないか、

対象が男であれ女であれ、性愛はすべからく変質行為であると

ウォーターズは考えているのではないかと思わされるのもいやなところ。

それ以上にこの作品のすさまじく「いや」な部分は犯人の妄執的な上昇志向で

それを懸命に隠しているようで、実は隠せていないのではないか、の部分も

また薄気味悪い。

ウォーターズが親切な作家ならば、この作品は何人かの語り手がそれぞれの視点で

ことの動きを記録しても良いはずだが、定石過ぎるからかしていない。

だから、読み手が違和感を覚えることで成り立つミステリーになっている。

ディケンズの「ピクウィックペイパーズ」に収録された、

最近は独立した作品として紹介されることもある

「ある狂人の手記」の読後感に似ていると私は思った。

この短編の場合、初めから書き手が自分は「狂人」であると明かしているが、

明かされない場合、ウォーターズの今回の作品になるという気がする。

これも偏執性、執着心の話であった。

ウォーターズの作品で気の毒なのは没落した一家の人間たちだが、

考えてみれば、彼らを手に入れようとした人間から全員がうまくすり抜けたので

ご大家の血は汚されなかったとも考えられる。

結局、主人公が欲しいと願ったものは何一つ手に入らない、

幼いころに屋敷の飾りをもぎ取った後のように、手に入れたはずなのにもろく崩れて

なんにもならなかったむなしさを抱え続けて生きる、

生そのものが既に「罰」である悲しみが最後にはある。

でも通されたお屋敷の一部を削り取ろうとする幼児は将来ろくでもないことになる話

と思えば単純ではあるな。

普通、地域で最高のおもてなしを受ける機会を持った幼児が、

その中でも特別な、お屋敷の内部まで見せてもらうことができたら、

そこにあったものを削り取ってでも持って帰ろうと試みるより

圧倒されて何もできないでいる方が「まとも」であるよな。

子育ての終わり切ったおばはんはそこで「えぇ?」となったので

割と早くに犯人がわかってしまった。そういう人は多かったので7位なのかな、

書いていて納得したかも。おわり。