読書メモ・サラ・ウォーターズ 「エアーズ家の没落」

書庫をあさっていると2010年の「この・ミス!」が発掘され

海外ミステリの7位に「半身」「荊の城」のサラ・ウォーターズ

「エアーズ家の没落」があったので借りて読む。

しみじみ思うのが、この人を完全に評価できる人は今の日本に何人ぐらいいるのか、

自身の趣味を完璧なまでに織り込んだストーリーをどの程度読み解けるのか、

要は「完全!」な出来であると、なぜこれが7位なのか、

今回、その年のベスト1であるキャロル・オコンネルの「愛おしい骨」も読んだが

小説としての完成度の高さは「エアーズ家の没落」が数段上である。

愛情の執拗さを描いてこの方の右に出るものはないと思われるのだが

「このミス」の1位に輝いた「荊の城」も、「半身」も見事に女性の同性愛を描いて、

それでもまだその愛情は美しかったが今回の異性愛は異常さしか感じられない。

書き手の性的趣向を反映するのをためらわない、その潔さには脱帽。

なんだか万事において「参りました!」感があふれる。

物語はヘンリー・ジェイムズの「ねじの回転」を模しているとされるが

私は様々なゴシックホラー、ロマン、を下敷きにし、さらに「ディケンズ」風味、

エドガー・アラン・ポーもトッピング、という感じか。

多分翻訳者もポーの要素を大きく感じていてこのタイトルではないか。

原題は「The little stranger」、

このタイトルがなければこの作品は「ミステリ」にはならないのではないか。

救いのない物語でかつ多分「ミステリ」、

もうネタバレしてしまうが、ポアロの存在しない「アクロイド殺し」という

後味の悪い、残酷な、何のカタルシスもない完全犯罪で

恐ろしくやるせない、愛と執着の話と考えてよいのですかねえ、、、、

わたしとしてはキャロラインがすべての黒幕でとっとと逃げ出していただきたい感

ありありだったが、そうならなかったのが悲しい。

あるいはキャロラインには開き直って結婚していっそ子供を産みまくってほしかった。

そういうやり返しがないところがつらいお話であった。

でも確かに「このミステリがすごい」であった。

サラ・ウォーターズは翻訳を全部読む予定。