かぞくのきろく。(その1)

曾祖母のことで、ここ数年、年寄りと付き合って聞いた話が増えたので記録。
私の父方の祖母の母は明治の半ばごろに豪農の家に生まれ、当時としては珍しく「数学」の勉強をさせてもらえた女子だった。
どうやら器量がいまひとつと思われたらしく、結婚相手が見つからないかもしれない、
一生家にいるなら帳簿でもつけさせようと、頭がよく、特に計算に興味を示したので男兄弟とともに勉強したようだ。
地方の豪農はその地区の商売も取り仕切って様々なつながりがあり、出入りの商売人も多くいたそうで、
そこここの大きな家に出入りする商人が、曾祖母が年頃になったとき、持ってきた縁談話が、
実家から遠く離れた場所の、豪農ではなく古い「豪族」の本家長男との結婚で、年は離れているし後妻ではあるものの、
とにかく「家格」はあちらのほうがはるかに上、頭はいいけれど気が強い曾祖母はほかに貰い手もなかろうと、嫁に出された。
この相手が私の実の曽祖父になる。
曾祖母のはじめの結婚はまだ10代で、会ったことのない相手は20歳近く年上、しかも後妻、本当に昔は「女」に権利はなかった。
しかし、私の曽祖父は今見てもかなりの「イケメン」で優しい人であったので、意外に曾祖母は幸せだったらしい。
「酒」さえ飲まなければ。
酒を飲むと暴れる、手のつけようがなくなる、曾祖母は三人目の妻で、前の二人はその酒癖の悪さに付き合えず実家に帰ってしまった。
近隣に聞こえた頭の良い娘で気の強い曾祖母であれば何とかなるんじゃないか、と結婚を周旋した商人は期待したのか、
実際、酒を飲んでいないときや、酒を飲んだときでも、曾祖母が身重でない時は曽祖父と渡り合ってそこそこうまくいったようだ。
私は昔、祖母が写真以外で父親の顔を知らないと聞いたので、てっきり祖母が生まれる前になくなったのだと思っていたら、
曾祖母から直接話を聞いた母曰く、
祖母がおなかにいたときも、酒を飲んで暴れたときは平気で突き飛ばす、腹をけるので、
祖母が生まれてから、酒を飲んで暴れだすと寝ている赤ん坊を踏み殺されないように抱えて家中を逃げ回って大変だったそうなので、
曽祖父は祖母が生まれるのを知らずになくなったわけではなかったと初めて知った。
曽祖父はなんと自分の家の酒樽の中に落ちて死ぬと言う、まるで横溝正史の世界のような死に方をしたと祖母が言ったので
本当か、と母に聞くと、やはり本当らしい。
家で働く人間が非常にそれで迷惑した、「酒漬けになった人間と言うのは」な話を私の曾祖母はあけすけに語る人だったので
母は気持ちが悪くなったと言う。
私の曾祖母は壮絶なことを実にあっけらかんと話す人らしく、こういうところが昔の人だな、
神経が図太いと言うか、現代人とはまったく違う感覚を持っていたようだ。そうでなければ困難な人生を乗り切れない。
長くなるので、今日はここまで。