日常。

北杜夫の「楡家の人びと」を読んでいる。
中学生の私は「ドクトルマンボウ青春期」から彼の勧める「トニオ・クレーゲル」に飛び、なぜかシュトルムの「みずうみ」を読み始め、
ディケンズに流れ、そこから私の翻訳本遍歴が始まったので、多くの人に勧められたにもかかわらず「楡家の人びと」は読み逃していた。
何十年も経って読み始める、このめぐり合わせの悪さよ。
確かに大変面白い。この面白さは私も一定年齢になっているせいなのか。長編だが北杜夫は文章が軽いので、どんどん読める。
また、自身の「家族の歴史」と言う重い話題なのにどこかユーモラスなのは、さすが。
面白いのは主人公の診察シーンで実にいい加減な医者っぷりなのだが、患者のウケはいい。
帝大卒の学究肌のその息子がぎりぎりといらだつ気持ちもよくわかったりして。
ご近所の開業医の評判を私が聞くたびに、身内が示す反応にそっくりで、学問的に「正しい」のは身内のほうなんだろうが、
一般社会では専門家が眉をひそめるやり方のほうがよほどウケる。
患者自身が「雑」なんだから、診察も基本的には「雑」でもいいんだよ、よほど深刻な病でもない限り。
世の中、そんなに深刻な病ばかりではないからね、少なからず、軽めの「心の病」も開業内科のところには来るんだから、
その相手を安心させる対応さえしていれば、そこそこ評判はよくなる。
ま、たまに大変なミスをしでかすこともあるだろうから、大学に回されたとき、困るんだろう。
そういうことを考えながら実は「悲劇」だと聞いている小説を読む。年をとるって面白い。