夏の読書案内(その4)

「夏」というよりもう「晩夏」か。
早くに翻訳本に手をつけたせいか、「心を動かす日本の小説」にはあまり多く出会ってない、と初めて気がついた。
量はそこそこ読んでいても心の琴線に触れるような本は少ない、それでも思い出すと、北杜夫加賀乙彦に行き着く。
北杜夫は「ドクトルマンボウ」シリーズを(おそらく)全作読んで、最も印象に残ったのが「ドクトルマンボウ青春記」。
私はどうも昔から「戦争期の生活記録」が好きらしい。
東西を問わず今までに心に残った本のほとんどが戦争にまつわる市井の生活だ。
「ドクトルマンボウ青春記」はドクトルマンボウ北氏が「ドクトル」になるまでの回想記で父親である斉藤茂吉との関係が特に印象に強い。
私は「斉藤茂吉」より先に北杜夫を「ぼくのおじさん」で知ったので北杜夫が「あの斉藤茂吉の息子!」と扱われるのがよくわからなかった。
中学入学後、教科書で「赤光の斉藤茂吉」と覚えたが、短歌界の巨人・斉藤茂吉が中年期以降、若い女性と不倫愛に狂ったなんてことはまったく知らず、
故に「青春記」にもどかしく触れられている父親の女性関係の部分はさっぱりわからずに読み飛ばしてしまった。
後に、別の小説でその事実を知るにあたって、北杜夫も若いころ大変だったなと同情する。
今と違ってウィキペディアのない時代、本を読むのも一苦労。(か?)
確認したところ、ウィキの斉藤茂吉の項に茂吉の不倫は触れられていないので、まあ、今でも一苦労か。
ウィキには、茂吉の妻の不倫が触れられているので、これはもう公然と認められているのか。
北杜夫は自分の母親について「かなり困った人」と触れているので、両親ともにいわば「偉人」の下に生まれるとは本当に大変。
てな事を考えていると、もう一度読み返したくなったな。
先日も「竹光侍」を読み返して、やはり「いい!」と思ったので、読み直そう。
たぶん、斉藤茂吉のこともある程度理解できるようになったので、また違った感想が得られそうだ。
読書案内は自分への案内になっているな。
加賀乙彦についてはまた後日。