久々の読書記録。

知る人ぞ知るあの卯月妙子さんの「人間仮免中」(イーストプレス
これは本来、誰が買う本なんだろうなあ、うちのダーリンはamazonに注文したようだが。
私にとってこの読後感はかの吾妻ひでおの名著「失踪日記」によく似ている、ひしひしと、ただ哀しい。
卯月さんは多才な人であるにもかかわらず、その「心の病」(統合失調症)のために常に自分やその周辺を壊したい衝動に駆られる。
冒頭から壮絶だ、「干支を一回り」つき合ったパートナーから突然(?)「出て行ってくれ」と頼まれる。
彼女の病のせいでパートナーもどうやら神経を病んでしまったらしい、彼女はそれをすんなり受け入れて、
その後また新しいパートナーを得て、それでも治ることのない病のせいでいろんな事をしでかしてしまったりして、
今回、この本を読んだあと、「弁護士のくず」で有名な井浦秀夫の「AV烈伝」に収録されている卯月さんの章をはじめて読んだ。
いやー、すごいなあ、私はこの人の「実録・企画モノ」「新家族計画」を読んだとき、西原理恵子内田春菊の後追い、
自虐マンガ系の女性作家の一人だとばかり思ったんだが、その「異常」性は「ホンモノ」だったわけだ。
その「異常」が今回の「人間仮免中」では徹底的にシンプルに描いている。シンプルにしか描けないのも、抱えている病の性だけど。
それでも彼女はとにかく「生きる」、幸運や不運と共にさまざまな人の手を借りながら、私はそこに泣ける、病と共に生きる、とは本当に切ない。
多分、私がこの本に心を強くゆさぶられるのは、今、年老いた両親とつき合う時間が長くなっているためなんだろう。
今の時代、「老いる」とは「病む」と同じ事で、そのどうしようもない「病」とつき合う、つき合わねばならない悲しさが今の私には「日常」となっている。
病が日常として「組み込まれる」と言えばもう消化できているかのように見えるが決してそんなことはない、
病を抱える人と共に生きる、とは病を持たない人間に相当な負担がかかることでもある、
卯月さんの場合、前のパートナーを、そして実の母親を、また現在のパートナーをも少しづつむしばんでいる。
本人の負担の大きさ以上に周囲への負担もまた「病」がかかえる問題だ、これはきっと解決されることはないだろう。
それでもやはり人は生きる、何故そうなのかはわからないけれど。
吾妻ひでおの「失踪日記」の名言、「腐ったリンゴはあたたかい」、何故か卯月さんが生きていることがその一言であらわされる気がする。
他人に強く薦められる本ではないけれど、私にとっては深い本だった。
しかし、卯月さんの薬の量はひどい、まともな医者にかかっているのかどうか、心配になるくらいだ。
ただ、精神病患者にとって「いい医者」とは薬のコントロールをしてくれる先生ではなく、どうしようもない自分を決して「見捨てない」先生なんだろうと思った。
「見捨てられたくない」とはやはり「生きたい」と言うことだろう。心の病はやはり哀しい。