「崖の上のポニョ」の感想。

「ポニョ」を見てきた。賛否両論の話にはずれ無し。
お気に入りの方が評していたようにこの映画は「絵本」のようで、「アニメ」が私のように「カルピス劇場」で育ってきた世代には懐かしい。
私は「パンダコパンダ」より、海の研究所みたいな家(?)から「ポニョ」が逃げるシーンでディズニーの「ファンタジア」を思い出した。
いろいろバッシングされているリサの運転やその行動については、なんでそう言うことをいうのかな、と
これはものすごく「リアル」な「地方」の「母1人、子1人」の話だ。
玄関が別で裏がつながっている老健施設と保育所だとか、親子で一緒に「出勤」するところとか、田舎によくある風景だ。
「宗介の出来がよすぎる」なんて批判はいわば「職、育児、一致」状態の親子の立場を理解していない勝手な意見、
私には、なかなか帰ってこられない父親を待ちながら仕事をしているリサがものすごく気を遣って子供を育てているのがよくわかる。
「職場」のいわば「お客さん」である老人達に嫌われないように「お行儀よくしなさい」とリサは宗介に言ってきかせているに違いない。
だから宗介は老人達にきちんと挨拶をし、下手ながらも一生懸命に折った折り紙を渡す、
それを喜んで受け取ってくれる老人達のやさしさ、私はそこで涙した。
未熟な母親が子供をなんとか育てられるのはそうした「支え」があってのことだ。
だから、リサが一度後にした老健施設の様子を見に行くためにとりあえず高台で安全と思われる家に子供をおいて出かけるのも
当然のことに私には思われる、狭い地域で非常時は体の不自由な老人のいる施設では少しでも手が多い方がありがたい、
大変な嵐の時に自分だけのうのうと子供と過ごすことに耐えられなかった、リサの「仕事」への責任感が私には痛かった。
また、リサの運転だが、田舎で軽自動車を運転する人はみんなあんな感じだ、しかもリサ達の家は急な坂の上にある、
アクセルを思いっきり踏み込まないと軽自動車では登りきれるはずがない。
「嵐の時に運転をする」についても、そこで暮らしている人間にとって海側の道などちょっとした嵐で波をかぶるなんて日常茶飯事。
私ですら、かつて住んだところで、冠水した道なき道を死にもの狂いで運転したことがある。
通行止めになっていたが、地元の人に、小学校にいる子供をどうしても迎えに行かなければいけないと話すと
「何があってもアクセルいっぱい踏み込んで止まらないでまっすぐ行きなさい」と教えてもらった。大雨で帰りはさらに地獄、
そのまま、もし水にさらわれて親子3人流されたら「こんな嵐の日にバカ母が、、」なんていわれるんだろうな、と
半泣きになって思ったものだ、1人で子供を育てると、そんな経験もする。リサは私だ、と泣けた。
かつて私も海の迫る山際に張り付くように存在する町で住んだ頃、若かったが故の失敗を、
多くの他人に助けられながら子育てしていたことを思い出した。
ところで、都会の人たちには田舎の僻地の排水設備の悪さが想像できないかもしれない。
私が移り住んだ宿舎は常に低地にあってちょっとした雨で簡単に床上浸水をするところが多かった。
それでも地元の人はそのことになれている、映画の中で、船をこぐ人たちが出てくるが、あれもよくある風景だ。
よく浸かる地区では「マイボート」を持っている人がわりといる、
道が浸かって住んでいた家が「陸の孤島」になったときボートで、様子を見に来てくれた近所の人がいて、初めて見たときは驚いたものだ。
映画で他に面白かったのは、「ハム」を食べた「ポニョ」にその父、「フジモト」が取り乱すところ、
あれは「自然派」を愛好する人達が子供に食べさせるものにうるさく、それでもその子供は外で添加物の味を覚えてきて取り乱すのによく似ている、
クロレラ」のような怪しげな「健康食品」っぽいモノを拒否する「ポニョ」がかわいくて笑えた。
「ポニョ」の父親への反乱(?)、それでも娘を愛して追いかける父親、宗介の母親をどこかで「守ろう」とする幼い姿など、
対照的な、様々な親子愛もよく描かれている。親子ともどもに成長していく「育児日記」を眺めているようにも思えた。
人から見ればおかしく見える「育児」であってもそれぞれの親子の間には確かな愛情が感じられる、

この映画は子供が宗介ぐらいの年の、親子のために作られたいい映画だと思う。
劇場は満席で、小さな子供連れが多く、暗くなると泣き出す子もいたり、はじめの方は騒ぐ声も聞こえたが、
だんだんと見入っていったのか、静かになった。
子供の笑いのツボはよくわからない、人間になった「ポニョ」が宗介の家で走り回る場面で子供達がどっとうけたり、
庭が浸かってしまったとき、「たこだ!」とそばにいた子供が叫んで、そう言うモノに反応するのだと、感心した。
我が家の高1,中1の子供達は「よくわからないところがいっぱいあったから家でまたみたい」と、
確かに小さな子供が繰り返し見て、あ、こんなところにこんなモノが、と絵本を読むように発見する、
そう言うことも考えて作られてるんじゃないか、
なんにせよ、この映画に妙なつっこみをする人がネットで多かったことを改めて変だと思った。
他にも思ったことはたくさんあるが、今日はこの辺で。楽しかったです。