「ザ・クラウン」3・4メモ その3

ようやく「サッチャーVSエリザベス女王」メモ。

サッチャー首相と言えば、私が物心ついた当時の英国首相で

その後長らく首相の座を守ったにもかかわらず、

現在においても毀誉褒貶どころか、「毀」「貶」しか聞こえてこない嫌われぶりで、

亡くなった時も英国内では猛バッシングであったのも記憶に新しい。

ということはよほど力のある政治家だったのは明白で、

同じ年齢だったエリザベス女王とどのような「緊張関係」だったか、

ワクワクドキドキ、だったんだが、割と拍子抜けだった。

 不思議に思ったのはなぜ女優が「サッチャー」を演じる時、

ああもカリカチュアライズした「物まね選手権」になるのか、

「鉄の女の涙」のメリル・ストリープもそうだったが、

今回のジリアン・アンダーソンもくどいくらい物まねぶりがすごい。

チャールズ皇太子役の俳優も物まねぶりがすごい。悪意すら感じる。

憎まれ者は「戯画化する」ってことなのか。

とはいうものの、サッチャーはなかなかキュートな役柄で

クレア・フォイと交代したオリヴィア・コールマン

終始ぶーたれているのに対し表情豊かでいかにも「庶民」的。

政治的立場でのぶつかり合いは抑制が効いて女対女の闘いでもなかった。

先に「ダイアナVSカミラ」のシーンがあったからかもしれないが。

お互いろくでなしの息子を持つ者同士、分かり合える部分があったか、

私はこの度初めて知った、サッチャー氏のろくでなし長男が

ダカールラリーで行方不明になった事件でサッチャー氏が冷静さを失い、

それを見た女王が自分と子供とのありかたを思い直すエピソードは秀逸で、

王族と庶民の子供とのかかわり方が違うのを浮き彫りにしていた。

ドラマでは回数も限られるので取り上げるエピソードも厳選され、

「エリザベスVSサッチャー」は政治的立ち位置より、

その育ち方の違いで意思疎通が難しい、そこに重点を置いたように思えた。

例えば女王は時の首相をバルモラル城に招くのが慣例となっているらしく

地方の食料品店店主の父親のもとで育ったサッチャー氏が初めて招かれたとき、

王家の私有財産である城での王族の優雅な過ごし方を理解していない。

そこでは社交生活がきらびやかな「パーティ」ではなく「狩猟」で行われる。

その「狩猟」の時、どのようなスタイルで何をすればよいのか、

サッチャー氏はまるで知識がない。保守党の党首であるにもかかわらず。

そこでサッチャー氏に「バルモラル城に招かれるとは」と教える人間がいなかった、

保守党の党首たるもの、知っていて当たり前、としてだれも言わなかったか、

あるいはあえて教えられなかった、保守党内で孤立している可能性をうかがわせる。

階層のために複雑な立ち位置にいるサッチャー氏の苦悩が匂う。

と言って、実用的英国民として苦悩などという繊細さはサッチャー氏には

あまりなかったような気もする。

彼女はその手の感情をすべて「怒り」で示す単純な人間に思われた。

私はそういう人間が好みなのでサッチャー氏が面白い。

以前からサッチャー氏に興味があったので現在、新潮選書の

マーガレット・サッチャー 政治を変えた「鉄の女」」冨田浩司著を読んでいる。

サッチャー氏が繰り返しロイヤルブルーの服を着るのはなぜかと思ったら、

本によると党のシンボルカラーだそうで、お洒落にもこだわりがある。

シンボルカラーを身にまとうような感覚を持つ女性にとって

バルモラル城での服装の「はずし」っぷりは堪えたことだろう。

政治云々のことより、女性はどちらかと言えばこういうことに深く傷つく。

女王とサッチャー氏の微妙な関係のメモ、続く予定。