読書メモ・マーガレット・サッチャー 

副題「政治を変えた「鉄の女」」冨田浩司 新潮新書

私のような知識のない人間にとっては良書。

さらりとサッチャーの生涯と政治業績をさらってくれる。

しかし、あまりに知識がなさ過ぎたので読むのに時間がかかった。反省。

筆者は英国駐在経験もある外交官なので軽く自身の経験も交えて

彼女の政治力を解明する。

サッチャリズム」の言葉は知っていても具体的に何をしたのか知らない私には

その後あまりに英国の怨嗟の的となった印象しかないので

ここ数年、彼女の伝記映画が製作されたのが不思議だった。

不人気な人間を映像化してもなあ、って感じ。

 チャーチルもまた毀誉褒貶はげしい政治家ではあるが近年、よく映像化される。

英国が英国らしさを取り戻すための布石なのか。

サッチャーチャーチルに伍す政治家であるということがよく分かった。

EUとの関係を丁寧にサッチャー時代から読み解いてくれたこの本で

ブレグジット」の歴史的背景を垣間見られて興味深かった。

面白かったのが、サッチャーが政治のやり方の流れを変え、

またその流れの変革のため退陣するに至ったの考察で

丁度その時が退陣すべき時だったとは、政治史とは面白いものだ。

労働党と保守党の現在の形なども最後に触れ、日本も同じくで感慨深い。

チャーチルにはナチズム打倒!のスローガンがあったように

サッチャーには英国変革!のスローガンがあり、それがうまくいったかどうかは、

とりあえず置くにしても、彼女が冷戦の終結にかかわった政治家でもあるのは

非常に大きな業績に思われる。大国「ソビエト連邦」の崩壊はすさまじかった。

今ロシアはプーチン独裁だけど。

ただ、基本的にサッチャー女史は外交下手であったように筆者は考え

彼女の外交が最初はうまくいったのは外交音痴を自認してプロに任せたこと、

この「わからないことはプロに任せる」はフォークランド紛争時にも功を奏したようで

フォークランド紛争は極東の人間にとってはわけのわからないごたごたに思われたが

英国にとっては英国の威信をかけた戦いだったと、引けない戦いだったのは理解した。

あと印象に残るのはレーガン大統領との関係か。

個人的に好意を抱ける関係であったのに割と驚いた。

レーガン大統領の業績も読むべきだな。

サッチャー氏はあまりに新聞などのマスコミが叩きまくる印象がありすぎて

何故、その治世がある程度以上続いたか、全く見えなくなっていたりする。

私もいい年なのであまりにもなものがそう長く続くわけではないのはわかるので

サッチャリズムも叩かれ過ぎの印象がある。

当時、何があってどういう流れでそこに至ったか、を全く説明せず、

都合の良い部分ばかりをついばんで知識のない人間に間違った印象を植え付ける、

その手法が常套化している現在、言葉は何のためにあるのか、憤ること、多々。

何が責められて、何を責めるべきではないのか、

それくらいはっきり知っておきたいものだ。

一部の集団に都合の良い言説にだけ振り回されたくはない。

その点においてこの本はサッチャー入門書としてよかった。興味があればおすすめ。

この方が書かれたチャーチルの評伝もそのうち読む予定。

筆者は外交畑の方なので途中、サッチャーのいかにもおばはん的猪突猛進型外交政策

隠しきれない嫌悪感があったのも楽しい。

途中「クソ婆!」とののしりたい気持ちを抑えて書いているような感触があった。

サッチャー女史は面倒な人であったのは事実なんだろうな。

星は個人的に5つ。おわり。