「過去」を読む。

昨夏、書庫を整理していたとき

英国推理作家PDジェイムスを何冊か掘り出した。

一番初めに読んだのは「ナイチンゲールの屍衣」であったな、

そのあと彼女の作品でもっとも有名な「女には向かない職業」を読んで

被害者も犯人もオチまでも覚えているのに殺人経緯がさっぱり思い出せない。

まだ高校か大学生くらいで読んだはずなのに

私の記憶はここまで劣化したかー!とショックを受けたのだけれど、

忘れたならもう一度読めばよいわ、と読み返し、

実のところ、当時の私は「ふーん」としか思わなかったので印象に残っていなかったが

50を超えて読んだところ「名作!」と評価が変わるのだから、加齢現象は恐ろしい。

私がこの作品を初めて読んだときは

「世界でもっとも可憐な女性探偵」といわれた主人公「コーデリア・グレイ」より

はるかに若く、これが素晴らしい青春譚であるのが理解できなかった。

まあ、青春の鳥羽口にいる当事者は青春が何か、見えないからな。

読み返したのが昨年で、ちょうど下の娘が「コーデリア」と同じ年、

娘はまだ大学院生だったが、大学卒業者ならばちょうど社会に出たくらいの年齢で

そこでこの悲痛な冒険に旅立つ彼女のひたむきさは、

「女性探偵」という推理小説のジャンルを超えて大変美しい。感動した。

再読している時々に、思い出すのは

それを読んでいた当時の若かりしころの私で、

なんとまあ、お気楽な学生であったか、

その恥の多い記憶を愉しみつつ、失われた若い時間の苦味を味合う。

事件の経緯を覚えていなかったのは、私がまだあまりにも若かったせいか、

過去の読書を繰り返してみるのは面白い、と思ったのでした。

図書館通いを自粛している現在、取り掛かっているのは

カドフェル」シリーズ、

これも読んでいた私の過去が行間から不意に浮かび上がって大変楽しい。

 年をとるとは楽しみもあるものだと最近思う。

だから人間は長生きできるんだろう。

また読書録を残さねば。おわり。