出版前に急死したスティーグ・ラーソンから変わってキャラクターを使っての版。
これについてはかなり問題があるのを知っていたがどこに問題があったかは
3部作を読んでからラーソンの長年のパートナーが著した「ミレニアムと私」を
読んでよかった。彼女はほぼ半生をラーソンと過ごしながら事実婚であったために
彼とともに受け取るはずだった栄光と富をほとんど受け取れなかった。
疎遠と言っても良い存在の父親と弟がそのすべてを受け取り、
今回の出版許可も彼らが出している。結果は、良し悪し。
3部作のタイトルは「蜘蛛の巣を払う女」「復讐の炎を吐く女」「死すべき女」と
ラーゲルクランツの1作目はクレア・フォイ主演で既に映画化済み。
先に映画を見た私は原作の方が出来が良いように思われた。
リスベット・サランデルと言う魅力的なキャラクターを原作者の死でともに失うのは
残念なのは理解でき、ラーゲルクランツは努力してラーソンの足跡を
丹念にたどりながら苦心惨憺仕上げたことがよくわかる。
批判は多いだろうが、この作品群はそれなりに高評価でよいと思われる。
第1作目は、手探りでラーソンの手法に出来るだけ近づけるように書かれて
多少ぎこちなさはあるものの、良くまとまっている。
私は続く第2作目の「復讐の炎を吐く女」が一番面白く読めた。
リスベットが監獄に収監される特殊な環境下で他者の自由のために戦う、
展開はスリリングで圧倒的爽快感とほんのわずかな納得できない苦みと、
第3作目でラーゲルクランツ版は完結して彼はきちんと仕上げたと感心した。
他人のキャラクターを使った作品とはいえ、彼は自分のものにしているので
彼自身のオリジナル作品を読みたくなった。ご本人もそうしたくなったのかも。
とにかく、この作品の版権はあまりにも理不尽な結果となっているので
引き継いで書く人間にも相当な別の意味でのプレッシャーがかかっただろう。
そもそも、長年のパートナーであれば続編を出すのを許可したかどうか、
彼女がたった一つに権利として保存しているらしい第4作目の草稿(メモ?)は
果たして公開されることがあるのか、あったらよいなあ、って感じ。
あまりにもリスベットと言うキャラクターが魅力的なので失うのは惜しい。
欧米ではスーパーマンやバットマンなど、そもそも最初に誰が作成したか
忘れ去られているキャラクターが作者を変えて次々に展開していくので
これもありかな、と思うが、パートナーにとってはそうでもないようだ。
この件に関しては「ミレニアムと私」の感想で書くことにして、
3部作では定番キャラクターの死や原作では小さかった存在を大きく膨らませて
それも完結させているのでラーゲルクランツは相当な手練れだ。
リスベットの魅力は常に更新され、より強くなってまことにアメコミ的。
ラーゲルクランツはリスベットのハンドルネーム「ワスプ」をアメコミから
発想したと設定して、これは彼がこのキャラクターを引き継いだ正当性を
ちらりと吐露したのではないか、
リスベットを失いたくないのは版権を持つ親族だけではないのだから。
しかし今後この「ミレニアム」はどうなるか、受け取るべきではなかった大きな遺産を
受け取ったスティーグの父親と弟には強欲な「コンサルタント」がついているのか、
「ミレニアム」の版権を別の出版社にうつすとかで、
今後かのキャラクターはどうなっていくのか、
「キャラクターの権利」をパートナーが争うのはよく理解できた。
ところで、この3部作ではミカエルはどこかしら「お姫さま」のようで、
ピーチ姫のような、「なんかそこにいる人」にだんだんなっているような、
いつも誰か女性に助け出されているのがなんだかおかしい。
そういう意味でもラーゲルクランツ版はスティーグが持ち続けたフェミニズムを
ちゃんと踏襲していると思った。お勧め度は原作3作を読んだ後に読むなら
星4つ。好き嫌いもあるかと思われる。おわり。