「イギリス料理はまずい」と言う文化

があってな。
これは一種のスノビズムと私はかねがね思っている。
主に英国のアッパーミドルクラスとお付き合いのある日本人のある種の階層が繰り返し言うことで、自分たちは文化的である、と
要は英国人のある程度以上の階層の人間もそう言ってるから、同じような階層の似たような人間が同じことを猿真似する。
特に悪名高き「フィッシュアンドチップス」を「まずい!」と言いたがるのは
「そんなものを食べるような下層民ではありませんよ」てな、「サッカーなんて見たことがありません」な階層差別であることよ。
英国文学好きの私はかの有名な「フィッシュアンドチップス」をいろんなところで食べ歩こうと試みて、
今はどうか知らないが、当時はパブでも「フィッシュアンドチップス」はメニューにあったのでよく頼んだ。
そのころは止まり木に女が一人で酒を注文するのは非礼であるの良識が生きた古い格式あるパブもあって、
そこがもっとも「まずい」フィッシュアンドチップスを出したものだった。
衣はべたべた、チップスもへなへな、どう考えても作りおきをレンジでチン、な、
そこそこの知識階層が来るパブで出される「フィッシュアンドチップス」があんなにまずいとそこしか行かない人間は「まずい!」と言うわな、
階層の檻に閉じこもる人間は別の場所で同じものを食べてみようとはしない。
私が港湾近くの地元労働者がたむろする専門店で食べた「フィッシュアンドチップス」は魚の種類が選べて、そこで衣をつけて目の前であげてくれて、
衣はさくさく、魚はほろほろ、で、実にうまかった。コックニーなまりのおっちゃんがバシャバシャとビネガーをかけてくれ、ツンとした香りが、なかなか。
揚げたての熱さを少し緩めるためにかけるように思ったが、本当のところはどうだろう?
なんにしても「フィッシュアンドチップス、うまい!」といえない雰囲気は感じ悪いわ。味覚で人を差別するなよ。
ところで、イギリス料理は世界的にまずいか、において、味覚は「なれ」が大いに関わるのでなんともいえないものの、
イギリス料理の影響をその支配国が受けてはいなさそうな点から考えると確かに「世界基準」で「おいしくはない」んだろう。
フランスが宗主国であったベトナムなどはフランスのパン文化が根付いているようで、
一方、インドの「スパイス・カレー」文化は宗主国である英国の味覚に大いに影響を与えたので、「力で勝って味で負けた」英国とインド、かも。
私は素朴な英国料理が好きだ。川魚にトマトを載せてグリルしたものや「ボイルドマトン」のマスタードソース添え、
残り肉をマッシュポテトで覆って焼いたシェパード・パイ、缶詰ポークビーンズさえ、嫌いではない。
ショートブレッド、トライフル、種類の多いサンドウィッチ、諸々。
カレー味なのに甘いチャツネにまみれたチキンやサーモンのサンドイッチ、
大昔に滞在したころは「マンゴーチャツネ」が苦手だったが、今では食べてみたいと懐かしく思う。
なんにしても、英国のスノッブであるがゆえに屈折したアッパーミドルが自嘲気味に自国の料理はまずい、と言うのを日本人がそのまま鵜呑みにする
のは知性を疑われると私は思う。
他国の味を否定するのは、その国の文化を否定することではないか、と言って、私は上京するたび、「やっぱり料理は上方よ、、」と思うのである。
好き、嫌いはさまざま。終わり。