読書メモ 三分間の空隙 ルースルンド、ヘルストレム

「3秒間の死角」の続編。エーヴェルト・グレーンス警部シリーズのスピンオフか。

ミステリーというよりはエスピオナージュに近いような、

潜入捜査官ものというか、やはりクライムノヴェルなんだけれど、

新しい形のスパイシリーズと思えなくもない。

読んでいてフリーマントルの「消されかけた男」を思い出した。

「いつまで生きてるんだ?チャーリー・マフィン」シリーズはどれくらい続いたか、

一つの魅力的なキャラクターが生まれたらそれを続けて使いたい気持ちはわかるが

ややジェームス・ボンドな無敵の存在になってしまっては、今一つになるかな。

とはいうものの、この作品も面白かった。

前作と引き続き上に立つ人間が簡単に下の人間を

それまでの成果を全く無視して切り捨ててしまう。

それをしまいと動く人間が割を食ってトホホ。

今回のトホホさんは有能な女性警察官僚。いつか何とか巻き返していただきたいもの。

前作でもそうだったが、トップの人間たちがそれまで自分たちに大きな成果を

与え続けてきた人間をちょっとした瑕疵で迷いもなく切り捨てる判断をするのは

「福祉の国」スウェーデンのみならず、大国アメリカでもそうであるように

描かれるのは創作内とはいえ、切ない。

しかも今回はアメリカの政治家たちの傲慢が余すことなく語られ

ヴァランダーシリーズのマンケルもそのように描いたが、

スウェーデンの大国ロシア以外のもう一つの脅威は米国か、

大国でやりたい放題なのが何気に憎まれておりますな、アメリカ。

今回、様々な混乱を巻き起こすのは米国の政治家で、

こよなく麻薬を憎む理由は娘を麻薬の過剰摂取で失ったことなんだけれども

12歳から麻薬に溺れるって、ちゃんとしつけておけよ、父ちゃん、と、

私立の高い治療所に入れてもそこで仲間を作ってより深く麻薬に溺れる、

その結果亡くなったのは気の毒とはいえ、

だからと言って危険極まりない麻薬精製所殲滅の場に「私が行く!」と

ベテランの警護スタッフを振り切って行った挙句に

そのベテランスタッフ含む全員が殺され人質になってしまう、

このあほさ加減に私が激怒。

ゲリラには「もっとこの親父をしめとけ」と思ってしまったわ、

あまりにも身勝手すぎる。

行かなくても良いところに無理やり行き、死ななくても良い自国の人間の命を無駄にし

有能な女性捜査官の首を飛ばす、「この父ちゃんにして娘あり」とまで思うおばはん。

米国にむかつく出来のお話ざんす。

日本は妙に欧米、最近は北欧諸国を「癒しの素敵な国家」として持ち上げるが

実質は麻薬汚染が深刻なようだ。

日本がまだそうなっていないのはある意味薬の規制が厳しいだからだけれど、

その恩恵を全く考えずに緊急避妊薬の市販化を妙に正義と信じるのはどうかしていると

私は考えている。

「いつでも買えてハッピー」な薬では決して「ない」が理解できない国民が

この先どの程度麻薬汚染から無縁でいられるのか、

なんにしても南米は麻薬精製の技術がものすごく高いのがわかる話であった。

星は4つかな。前作の「3秒間の死角」から読むべき作品。おわり。