漫画感想・70年目の告白 毒とペン 高階良子

マイダーリンの変わった趣味の一つに有名漫画家の昔話本を買いあさるのがある。

最近では竹宮恵子vs萩尾望都の本が有名になったせいか、往年の人気女性漫画家が

次々回顧録のような漫画を出版して「生徒諸君!」で有名になった庄司陽子

「ゴールデンエイジ」などネットでも話題になった気もする。

この世代の漫画家は私には少し上になるのでピンとこず、竹宮・萩尾の本に至っては

まだ読んでいない始末。

ただ、当時の少女漫画業界は上り坂で昭和の親父が鬱屈とともに大活躍して

まだ若かった少女漫画家をかなり酷使していたのがうかがえてぞっとする。

以前読んだ「ド根性ガエルの娘」でもその父親の漫画家も担当に追い詰められたのが

感じられて気の毒になった。吾妻ひでお氏もそうじゃなかったかな。

高階良子さんは私も数冊読んだことのある漫画家で面白くて好きだったけれど

いつの間にか読まなくなっていたのでこの度この漫画を読んで、

ずっと書き続けてたのかー!と感心した。

考えてみればどこかの待合室の漫画本でお名前を見かけたら必ず読んだ気もする。

この方はミステリー完成度が高くて面白い、また読んでみたくなった。

ただ絵柄が今一つ好きではないので、大ファンとまではいかなかった。

さて、この回顧録というか告解本というか、相変わらずの絵柄で内容もえぐい。

ご自身の生い立ちと壮絶な毒母との闘いが描かれている。

高階さんは5人兄弟の真ん中として戦後すぐに生まれ、貧しい生活の中、

母親の凄まじいうっぷん晴らしのような存在にされて育ったこと、

その後、漫画家として大成功を収めてもその経済力に母親がとりついた上に

暴言で高階さんの精神を追い詰め死ぬまで辛い思いをした、と、

なんとも救いのないお話で、その合間に当時の少女漫画家業界のあれこれ、

駆け出し女性漫画家の足の引っ張り合いやアシスタント確保の難しさ、などなど

漫画界黎明期のいろいろがかかれて興味深い。

高階さんの独特の絵柄が相変わらずおどろおどろしくて一気に読むのが

難しい3冊ではあるものの、やはり面白い本であった。

漫画家として成功した後、それまで虐待してきた母親から経済的に取りつかれるのは

内田春菊さんが有名だが、その大先輩にあたるのがこの方か、

春菊さんの場合、母親以外の親族にも取りつかれたので、高階さんのご兄弟は

経済的には依存したようには描かれていないのでまだそこは救いか。

(現在もつきあいがあって書いてないだけかもしれないが)

壮絶な母親の毒ぶりがこれでもか、これでもか、と描かれるものの、

途中で私などは母親に「死んでやる!」と叫ばれたとき、

なんで「どうぞ」と言ってしまえなかったのか不思議になる。

「これが縄、踏み台がこれ、この梁が丈夫で折れないよ、私がいないときにどうぞ」

くらいは言ってしまうだろう自分とは世代が違うということか。

高階さんは私の母親より少し下の世代で私も母を見ていたらわかるのが

考え方が今とはだいぶん違う、親子関係の相克がどれほどあろうが

やはり「親は親、子は子」の考え方が骨の髄までしみ込んでいる、

「さっさと死んでくれ」なんて思うことすら許されないのは気の毒だ。

そして今の感覚で言えば「本当に?」と思いたくなるすさまじい虐待だが

これは昔はありふれていた現象だった気もする。

私は女学校時代の修学旅行先は当時「国内」だった「満州」である90代の義母と

最近付き合って、昔の人間の感覚に常に驚かされている。

まあ、壮絶ですわ、多分高階先生のご経験もすべて本物、

割とこういう鬱屈を抱えて生きてきた女性は相当数、昔存在している。

多分その血脈は続いて今でもこんな人はいるだろうな、も理解できる。

高階さんの母親はとても不幸な人間で、その犠牲者が高階さんだった。

抵抗が許されない、そうすることを自分で禁じている、のが一番つらいのではないか。

割とほかのご兄弟はこの壮烈な性格の母親とそこそこやりあっているので

高階さんほどの憎悪は抱かずに済んでいる。

高階さんは抵抗を自分に許さなかった、対等な立場でやりあうことを避けてきた、

多分、これは最初から高階さんが母親をあまり好きにはなれなかった、

その罪悪感からどうしても言い返せなかったんじゃないか。

「子供なのに母親が好きになれない」なんて今はある程度認められた感覚だが、

昔の人にとっては許しがたい感覚だったんじゃないか、と考えている。

お気の毒になあ、と今は大人になった子供が親をうっとうしがるのは

「当たり前」の感覚として存在しているので(と私は思う)良かったな。

高階さんはご自身がどう思われようと昔の中国故事の親孝行息子より親孝行、

と考えたおばはんであった。真冬にタケノコが生えるレベルですわ。

おすすめ度は、暗い気分になるので星3つかな。おわり。