小説・「パトリック・メルローズ」 ドラマを先に見るか、後で見るか問題。

私は「先に見てあとで読む」でよかった。

そもそもベネディクト・カンバーバッチ(以降バッチ君)でなければ

ドラマも見なかったし。見なければ決して読まなかった小説である。

ドラマは本が5冊と同じく5話で、

この長い小説を上手にドラマにまとめたと読み終えた後、感心した。

はしょった部分があっても小説の世界観を映像で再現できている。

小説が面白いかは私は先にドラマで情報が入っていたので読めたが、

ドラマになるほど良いのはどこかと言えばわからない。

私にはかかわりのない英国の中~上流階級のお話だし。

貴族の末裔が人生がイマイチぱっとしない上に倒錯した性に走った挙句、

さほど幸せにもならず死んでその性的虐待にさらされた子供が

大人になっても苦しむ話、というと身もふたもないが、これ以上の感想がない。

ドラマ化された世界が美しいので見る価値はあるが、読む価値があるかというと

ドラマをもう1度見て楽しむために読んでもいいかな、程度。

お金に困らないようで困っている中~上流階級で、微妙な豊かさのはざまでもがき、

そのもがきが何世代にもわたっていきそうな、

主人公であるパトリック・メルローズはそこから何とか出られそうな、

希望があるようなないような。

思いっきりネタバレだが、母親が父親からレイプされてできた子供がパトリックで

実の父親は息子である幼いパトリックをも性的に虐待する。

立派なキチガイ父親が母親と息子の人生をぶち壊す話だが、このキチガイ父親、

ドラマでは冒頭で死んでいる。小説の第2作目がドラマの1話目になっているので、

これは良い決断だったと思う、このほうがあとあとすっきりみられる。

小説では暗澹としたパトリックの幼少期が語られすでに性的虐待を受け、

レイプでできた子供であるのも幼いながらうっすらと知っている。

まことに救いのない話が続くので、何も知らずに読み始めていたら、

本を途中で投げ捨ててたな。

我慢して読み進めて2話でろくでなしの親父が死んだのはいいが、

父親の性的虐待によるトラウマで青春期のパトリックはすっかりジャンキー。

大きくなってから親父をもっとぼこぼこに殴っても良かったのよ、と

育ちの悪いアテクシは思うが、上品な階層出身者のパトリックはしない。

クズくそ親父は異様な魅力があって、映像はこの怖さをよく再現している。

私は小説だけではこの恐ろしさが理解できなかっただろう。

クソなオヤジは妻と息子だけではなく、昔からの友人にも暴虐をちらつかせつつ

年をとっても心理的に友人を支配していたりする。

「こんなにくそなのに?」と私は思うが、名門校でともに育った「ご学友」の関係は

奇妙にお互いの人生に絡み合って抜け出すことができないようだ。

諸悪の根源のような父親役をドラマで見事に演じたのがヒューゴ・ウィービング

人の好さがにじみ出る顔立ちのバッチ君の父親としては

悪相であるものの異常なのにどこか品格があった。

彼のあまりの存在感に立ち向かうのは人生の無駄、と私も思いこみそうだ。

ドラマでは、まず父親が冒頭で死に、最後に母親が死んでようやくパトリックは

自分の人生を受け入れられる「かも」で終わる。

この小説の著者は貴族の末裔で書いていることはほぼ実話らしい。

日本の翻訳本に乗る近影はバッチ君よりイケメンだ。

イケメンが苦しみぬいた半生の小説、ドラマでは省かれた気になる部分を明日メモ。

続く。