「U-next」で全5話・各1時間。
「シャーロック」のベネディクト・カンバーバッチ主演で以前話題になっていた。
第1話は「シャーロック」が薬の禁断症状を起こしたら、のような
ジャンキー演技がしつこいので見続けるか迷ったが、2話から引き込まれていった。
カンバーバッチ演じる主人公パトリックの父親デイビッドを
「マトリックス」や「ロードオブリング」のヒューゴ・ウィーヴィングが演じて
ひたすら不気味なので面白くなる。不気味で強烈で、奇妙に魅力的。
この存在感が半生を狂わされてきた息子であるパトリックの
どこかしら頼りなげなキャラクターをを際立たせていく。
実の父親による幼児期からの性的虐待が息子の人生をどうゆがめたか、
そこからどうやって更生に向かえるのか、苦しみの半生を描く。
原作小説は5冊あってその1冊を1時間に納めるのは大変だっただろう、
ある程度のあらすじを知っていなければ展開が唐突すぎて理解しがたいかも。
私は原作を読んでみたくなった。
ネットで拾った原作情報によると作者のほぼ自叙伝らしく、なんとも気の毒。
英国の上流階層の奇妙な悲惨をいくつかのエピソードにちりばめているようで
このドラマの中には私が最近見ていた「ザ・クラウン」で
エリザベス女王の妹で落ち着かない半生を送ったとされるマーガレット王女が
またもエキセントリックなキャラクターで出てくる。
高飛車でかなり意地悪な役だったので上流階層で彼女がどう見られていたか、
垣間見えるようで面白い。
庶民階層には「悲恋の王女」と同情を集めても、その不安定な情緒の持ち主と
普段づきあいしなければいけないとなると同情ばかりもできまい。
ドラマで描かれるのは主人公の心の回復だけではなく、
富裕層の一部の子供には良いと思えぬ環境も暴かれる。
若年者への性的虐待は英国ではまるで「ブーム」のようになった時期があり
例えば有名な、カソリック司祭による長期にわたる少年たちへの性虐待、
上流階級グループが10代前半の少女たちをある屋敷に集めて輪姦を行った事件など、
世界的反響を呼んだ事件が発覚したのと
原作の書かれた時期、また作者が悲痛な経験をした時期が微妙に重なる。
常時この手のことは「ある」ということか、
あるいは「カミングアウト」がしやすくなったのか、私に判断はつかない。
ドラマでは多才だった(がさほど大成はしなかった)父親が名門イートン出身で
そのイートン時代の友人と大人になっても付き合い続けている、
しかし友人間の力関係がいつまでもイートン時代のままであるように描かれたのが
印象に残った。
この手の、世間では大成したにもかかわらず、なぜか子供時代のほんの一時期の
関係性にいつまでもとらわれ続ける人間はある程度以上に恵まれた階層の人間に
時たまみられる気がする。
ド田舎の、そこから出られぬヤンキー層ではないんだから、とあきれるが
考えてみればある種の階層とは生まれた瞬間から逃れられぬ場所なんだろう。
逃れることはほぼ死を意味するのかもしれない。人間関係はそういうものだろう。
ドラマは星3つと半、かな。私には面白かった。おわり。