ほんの感想。「半身」「荊の城」サラ・ウォーターズ著

10年以上前の「この・ミス」のトップテン入りしたものとトップの作品。

マイダーリンが買って長らく書庫で眠っていた。

英国・ヴィクトリア朝モノで「君が好きだと思うよ」と言われていたものの、

この10年以上、その世界にどっぷりする余裕がなかった。

久々にディケンズ的本格作品でかなり凝った作りの小説だけれど、

ディケンズ傾向をどれくらいまで知っている人が読んだか、謎。

ディケンズは名前だけ有名で、英国人でも読んだことがない作家として

よく知られているらしい。

少なくとも私のホームステイ先のウェールズ出身者だったご夫婦は

「読んだことない、ドラマで見て知ってるけど」と白状した。

極東から来たえたいの知れない若い女ディケンズファンなんて聞いて

さぞかし彼らは驚いたことだろう。

私でもモンゴル平原のかなたから来た人間が

源氏物語が好きです」といったら驚く。

ディケンズの素養がなくても楽しめるのはお見事、翻訳家の方が上手に訳されている。

私は(翻訳本で)お世話になった小池滋先生を読んでいるように思ったわ。

2作とも舞台はディケンズ時代でヴィクトリア朝中期か、

私は最初に読んだ「半身」を

2004年度の「この・ミス」第1位の「荊の城」より推すのだけれど、

 それは「半身」が一人称で物語る方式が、

ディケンズの「リトルドリット」での「ウェイド嬢」の告白を

なぞっているように思えるからで

過敏で、自覚のある同性愛者で、世界の全てに絶望している孤独な主人公の語りは

「リトルドリット」のストーリーとはほとんど関係のない章を

ディケンズがわざわざ設け手まで描いたのがいまだ謎の

ヴィクトリア朝期、当時としてはかなり革新的な「自我を持つ女性」の

苦しみを的確に綴った「ある自虐者の告白」を忠実に再現している、

ように感じた。(これが正解かは定かではない。英語版ウィキをまたあたる)

「半身」で主人公の深い悲しみが心に響く。

そしてこの作品はシャーロックホームズの生み親であるコナン・ドイルが傾倒した

「交霊術」をモチーフにも使っている。

何重にもヴィクトリア時代と当時の小説を再現しているのが素晴らしい。

こちらのほうが小説として出来が良いと考えるが、

「荊の城」のハッピーエンド(か?)のほうがお気楽かね。

両作品とも女性の同性愛がテーマのひとつとしてあって

作者はレズビアンであることを公言しているらしい。まあ、隠すこともないか。

故に女性同士の愛の交歓(と言ってもほとんど心情的な)が生々しく美しい。

残念ながら私は「ボーイズラブ」が苦手なように、

この手のものもあまり好きとはいえない。

おばはんにはどっちもわからんわぁ、はともかくとして、

いわゆる「ユリ」的なものが苦手な私でも楽しめた作品であった。

星は5、といいたいがたぶんディケンズやその時代に詳しくなければ

完全には楽しめないだろうから4と半、かな?

その点で言えば「茨の城」はそこまで素養を必要としない話になるから

評価が高いのかも。

ところで先日、立て続けにル・カレも読んだんだが、もう忘れてるわ。(涙)

だから書かないと。おわり。