本のメモ・佐野眞一「別海から来た女」・おしまい

この事件で私が最も知りたかったのが「ネットに書かれたことを人はどの程度信用するのか」だった。
木嶋被告が書いていたとされるブログ(日記?)を事件のあとに読んだけれど、
「どこへ行って何を食った、何を買った、こんな素敵なものを私は持ってる、こんな素敵な生活を私はしている」をネットに書く人は多いので
木嶋被告のブログを、リアルタイムに見ていたとしても「変」と思わなかったかも。
ただ、定期的に読むことは写真が「ふつー」だったのでなかっただろう。楽しみに見るなら徹底的に「綺麗」なものがいい。
この本の中ではあまり木嶋被告のネット活動は取り上げられてはいなかったものの、被害者や被害者になりかけた男性の女親族たちが、
かのブログを見て「あんな女はやめなさい!」と口々に言った記述があって、「そんな人はネットに多いしな」とスルーしてしまいそうな自分が怖くなった。
ネットを利用することで鈍麻していく感覚は確実に存在するようだ、時にそれを痛感する。
「現実にこれをやられると笑えるわぁ」なことをネットでは平気でやれてしまうわけで、
私も現実世界ではこんな本を読んだことすら隠しておくのに、ネットでは感想をしつこく書いたりする、厳しい現実界では「変質者」だわ、全く。
それはともかく、木嶋被告のしたらしいことでちょっと笑えたのが「弁護士をしているパパと旅行にどうのこうの」なんてメールを送ったらしいことで、
私は今まで「弁護士のパパと食事に行く」と実際、弁護士の父ちゃんを持つ知り合いから言われたことはないので、これはなかなか「ツボ」だった。
だいたい他人の父親や夫の職業は、知り合ってかなり経ってからひょんなことで知るのが多いので、こうも現実界であからさまでは相手が女だとすぐバレる、
やはりこの事件の被害者は本当に気の毒だ、あまりにも男性らしく無邪気すぎた部分も確かにある。
長くなったので、あと1点だけ、この本では北原みのりさんもリアルタイムで取り上げて罵倒していた男性検事の件も出てきて
北原さんはその検事の個人的性モラルをあげつらっていたが、佐野氏はその検事がかの大阪地検の証拠改ざん事件の関係者であることを記している。
私はその奇異な振る舞いを繰り返した検察官の性嗜好を想像するよりはこういう確実な事実を示す佐野氏の書き方を信用する。
そういえば「東電OL症候群」でも佐野氏は加害者とされた男性が長く拘留された元を作った検事が、その後未成年の買春容疑で捕まったことも記している。
その検事の生活周辺も情け容赦なく追求していて「脱線」というには微妙でもある。
検察も人間機関だなあ、と、だから必ず間違いはある。
検事といえば木嶋被告は誰も確かめようのない自身の「肉体の機能」の素晴らしさ云々をとうとうと述べたらしく、それを聞かされたのは
まだうら若い女性検事だったようで、いやはや、誠に検事は大変。
こういう被告相手はせめて被告と同年代で仕事を続けながら結婚も出産も済ませた円満な家庭生活をおくる女性検事を当てるべきではないかな。
それともそういう人材は検察にはいないのか、そうだとしたら裁判員制度もやむなし、
で、かつ、日本の官僚機構は相当女性に非道であるな、などと、事件とは全く関係のない印象を持ったのでした。
真面目に司法試験の勉強をして若くして検事になった女性にはこの被告の存在はきつかったろうなあ。
多分、徹底的に木嶋被告を解体できるのはネットに存在する恐るべき私のようなオバハンたちかもしれない、
女世界で長く生きている私のような人間にとっては、木嶋被告のような女性はそれほど「レア」な存在ではないから。
と、いうような感想でした、おしまい。
ネットは怖いね。